【インタビュー】好きなことと、社会に求められることを両立したらこうなった、移動本屋BOOK TRUCKの小商い
石焼きいもに竿竹屋、駅前に姿を見せるおでんやラーメンの屋台など、昔から移動するお店は当たり前のように街に存在していました。いつでも見られるわけではないからこそ、見かけるとついついその姿を追ってしまいます。
近年ではケータリングカーが登場したことで、車で食べ物が販売されるのは珍しくなくなりました。雑貨や服なども車で移動しながら販売されるようになりました。それでも、今までに移動する本屋を見たことはあるという人は多くはないはずです。
移動する本屋BOOK TRUCK
移動する本屋、BOOK TRUCKは三田修平さんが店主を務めるお店で、開業してから2台目になる水色のバンを店舗にして、日本各地のイベントに出店しています。
三田さんは、専修大学を卒業後、ブックカフェの開店を目指して六本木のTSUTAYAで書店員として働き始め、その後、本も扱うインテリアショップCIBONE青山店の書籍担当、渋谷神山町の書店SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSの店長を経て、その後、2012年の3月にご自身のお店を立ち上げました。
お店を開業してから今年で5年目。三田さんが営業する横浜市の三田商店を拠点に、表参道のTOKYO CRAFT MARKETや、TOKYO COFFEE FESTIVALなど、マーケットや野外イベントを中心に出店を重ねているそうです。 この日は、目黒のEASE Creator’s Marketに出店されているところを取材に伺ったのですが、お子さん連れを中心にさまざまなお客さんがお店に遊びに来ていました。
日本各地を走り回り、さまざまなイベントで人々に愛される移動書店は、どのような経緯で生まれることになったのでしょうか?
本好きの学生が書店員へ、そして移動本屋が生まれた
BOOK TRUCKの店主、三田さんは大学時代から本をよく読む学生でした。経済小説の高杉良氏の本から読み始め、村上春樹氏や村上龍氏の著書はエッセイ以外は全て読破。村上春樹氏から影響を受けてヘミングウェイなどの海外文学や、時代小説も読んでいたそうです。
卒業後の進路は、大学で専攻していた会計の仕事と書店員の間で迷っていたそうですが、三田さんは書店員の道を選びました。
「学生の頃に、ある程度静かに本が読めて話もできて、飲み物や軽食がとれて、その本を買える場所があったらいいなと思って、ブックカフェをやろうと思っていたんです。そういうお店ってあるのかなと思って調べたら、すでに世の中にブックカフェがいくつかあって、その中のひとつが六本木のTSUTAYAでした」
書店員の世界に入った三田さんは、当時起こっていた”新しい”本屋のムーブメントに刺激を受け始めます。三田さんが刺激を受けたのは、その当時、活躍していたブック・ディレクターの幅允孝氏や、ブックショップ「ユトレヒト」オーナーの江口宏志氏、「暮しの手帖」前編集長の松浦弥太郎氏など。当時は新しい形の本屋が次々と形を成していた時代でした。
「僕が勤めていたCIBONEはインテリアショップの中に洋服や本を置くスタイルでしたし、本屋さんじゃないところで本を販売したり、新刊と洋書と古本を同じように扱ってたり、そういう新しさがありましたね」
書店の世界に入り、当時起きていたムーブメントに影響を受けた三田さんは、独立するときに移動本屋のアイデアを思いつきます。なぜ、移動する本屋という形を選んだのか?その理由には、大学の構内に書店を出店してみたいという思いがありました。
「それまでは本といえば小説というイメージが強かったんですけど、六本木のTSUTAYAで働き始めてから、本にもさまざまなジャンルや形があって、その先にはいろんな文化や人がいて、いろんな生き方があることを知ったんです。だから、それを学生の時に触れられたら、違った選択ができたかもしれないと思いました。それで、大学生にさまざまな本に触れてほしいと思って大学に出店したいと思ったんです」
開店時に、タイミングよく1台目となるバンも見つかり、三田さんは移動本屋として商いを始めることになります。
三田さんの働き方
移動本屋と聞くと、どのような働き方をしているか気になりませんか?
BOOK TRUCKに詰め込まれているのは毎回500〜600冊の書籍です。三田さんは毎回、固定店舗「三田書店」にストックしてある3000〜4000冊の中から本を選んで会場まで持っていくそうです。
選書は本屋の色が出るもので、書店の方向性を決める重要な要素。取材に伺ったときも、絵本や雑誌、サブカルチャーの本や料理にまつわる本が置かれていましたが、三田さんはどのように本を選んでいるのでしょうか。
「本は分量とお客さんの層と場所を考えて選びます。販売なのか展示用なのか、何と合わせて販売するのかという販売状況や、イベントのテーマを総合的に考えて、今手元にあるものと新たに仕入れなきゃいけないものを整理しながら準備していますね」
「車の外に棚を並べて出す本は、出店する場所に合わせて選び直すんですけど、細かくテーマが設定されていないイベントの場合はタイムリーな本が中心になるから、あまりラインナップが変わらないこともあったりします。車内のものは定番っぽいものを揃えていて、魚屋や八百屋さんみたいに最近仕入れたものはこれがおすすめです、という感じで揃えています」
三田さんは、移動本屋の店主としてだけでなく、固定店舗「三田書店」の店主や、小学館の雑誌Oggiなどでの連載、渋谷LoFtなどの店舗やカフェに置かれる選書のお仕事もされています。休日は移動本屋の仕事で出店するかたわら、平日は他の仕事をしたりと、三田さんは決まった時間では働いていません。お店が開いている時間は店で原稿を書いたりもすることもあるそうです。
「本屋の仕事って、勤務中だけ本のことを考えていればいいという仕事ではありません。事業を続けていくからには売り上げを気にしたり、やらなきゃいけないことはあるので、ストレスがないかっていうとそうでもないんです。でも、仕事の時間以外に仕事のことを考えることに負荷は感じていないですね」
仕事をしていると、必ず負荷がかかる瞬間がやってきます。仕事に対する疑問や悩み、一緒に働く人たちとの間に生じる軋轢。仕事には、誰かの代わりに何かをすることで報酬を得るもの、というルールがある以上、負荷からは逃れることは難しいもの。しかし、その負荷には「我慢できる負荷」と「そうでない負荷」の2種類があるように思われます。
三田さんの場合も、仕事のやりがいや楽しさと仕事で生じる負荷のバランスがとれているからこそ、今のお仕事を続けられているのでしょう。
今回、お話を伺う中で、三田さんの口から、こんなお話を聞くことができました。
「好きなことを優先したいというよりは、好きなことを通して社会に貢献したいという方がいいんじゃないかなということですね。単純に好きなことをやって生きていこうというよりも、好きなこととか、自分が興味があることを活かしながら貢献していく方法はないかなということを探ってみたら、それが本屋だったんです」
「逆に言うと、自分が好きなことと社会に求められることのどちらも満たせることとして本屋を選んだ。結局、本屋を続けてるのは、これを通して社会に貢献できるという点と自分が好きだという点と、その2点があるからだと思います」
小商いをしている方々の魅力は、その熱意にあります。好きなことを原点に、それを商売にしようと必死で考えるから、その姿や行動には「買ってみよう」「お店に立ち寄ってみよう」と思わせる熱意がこもっています。好きなことを仕事と同じ方向に向けたときには、“好きこそものの上手なれ”という言葉の通り、その道を極め、人を惹きつけてしまう力が発生するのかもしれません。
これからのBOOK TRUCK
最後に、5年目を迎えた今、これからのBOOK TRUCKについて構想を三田さんに聞いてみました。
「移動本屋は、移動できるメリットを追求してアクティブに動いていきたい。固定店舗の方も、移動本屋の拠点というよりはひとつの固定店舗としての価値を高めていかなきゃいけないと思っていますし、やりたいことはいろいろあります。今はイベントに出展することがほとんどですけど、月・水・金はここの公園にいるとか、特定の駅前に特定の曜日で、屋台のラーメン屋みたいな感じでできたらいいですね。『今日は水曜だから駅前本屋がいる日だから買って帰ろう』みたいな」
「人々の生活により根ざしたものは、移動本屋を開く前からやりたいなと思っています。なにぶん一人でやってますから、なかなかそこに手が回らないので、具体的に着手したいなという感じでゆっくりと準備を進めています」
移動するユニークな本屋は、三田さんの選んできた結果とそこから生まれる、さまざまな偶然から生まれたものでした。
三田さんのもとには時折、移動本屋に興味を持って訪ねてこられる人も多いそうです。きっと、三田さんの仕事を見た人が、また別の形で本屋を開業することもあるでしょう。そこで生まれた新たな本屋は、今後どのように人と本の出会いを紡いでいくのでしょうか。
三田さんのお店の情報
移動式本屋BOOK TRUCKの出店情報は、facebookページにて随時ご案内中。
また路面店「三田商店」、レストラン内店舗「THE PARKSIDE BOOKS」では、BOOK TRUCKでは販売していない本も多数取り扱っています。
【BOOK TRUCK】
出店情報はfacebookページにてご案内中
https://www.facebook.com/Booktruck
【三田商店】
〒220-0061 神奈川県横浜市西区久保町19-2小林ビル102
営業時間 12:00〜19:00(月曜定休)
https://www.facebook.com/mitashoten
【THE PARKSIDE BOOKS】
〒171-0022 東京都豊島区南池袋2-21-1 Racines FARM to PARK内2F
営業時間 9:00〜22:00
https://www.facebook.com/theparksidebooks/