小屋×都市 #11 オフグリッド、自給自足の小屋|都市を科学する〜小屋編〜 – オンデザインパートナーズ×YADOKARI

水、エネルギー、食糧、トイレ。
必要なものを自給する小屋がある。
山や森などの自然の中はもちろん、インフラが活用できる都市にもだ。
どんな方法が、あるのだろう?
なぜそんな小屋が、ほしいのだろう?

生活には何が必要? どう自給する?

必要なものを自給自足しながら過ごすための、小屋がある。

山や森、草原といった、都市から離れた自然の中で。

360°の開けた風景を独り占め「tintaldra cabin」
Via:designboom.com

あるいは、敢えてインフラが活用できる都市の中で。

電気・水道を自分でまかなえる、完全オフグリッドのタイニーハウス「The Matchbox 」
Via:boneyardstudios.org

では小屋は、生活に必要な何を、どう供給できるのだろうか?

厳しい気候でも快適なカナダのプレファブ・キット。水や電気、暖房が使える
Via:archdaily.com

雨や空気から得て、浄化して、循環させる水

まず水は、雨を集めるのが分かりやすいだろう。

雨どいを使って水を集める小屋の例
Public Domain

空気中の水蒸気から水を得るという発想もある。

自ら水を生み出すグリーンハウス「Jellyfish Barge」。水面と上空の温度差を生かして真水を生み出す。 Via:pnat.net

排水を浄化して再利用する、“循環”も大事な考え方だ。

オフグリッド・トレーラーハウス「Wohnwagon」。屋上の植物性フィルターが、シャワーや洗面台の排水を飲用可能に浄化する。Via: tinyhouseblog.com/

太陽や風などから効率よく受けるエネルギー

エネルギー源となる太陽光や風は、効率よく受けたい。

太陽を活かし、太陽と暮らす家「Wall house in Tenerife」
Via:rodriguezgil-arquitecto.com

いつでも使うために、発電だけでなく蓄電の機能も必要になる

NYに出現「Ecological Living Module」。隠れ扉の内側には蓄電池や水システムが。Via:dwell.com

太陽光を電気に変えず、光や熱として活用することもできる。

夏は日陰に、冬は日向に。クルクル回せるタイニーハウス「359」「Ecological Living Module」
Via:treehugger.com

暖房や料理の熱源には、薪を使うのもシンプルだ。

自然の中に放り出されて自分と向き合う「Kolarbyn Ecolodge」
Via:kolarbyn.se

食糧や小屋自体も、つくって自然に返す

食糧も、工夫次第で生産できる。

自分で育てて食べる家「EAT HOUSE」
Via:destuurlui.nl

トイレは草むらなんかで済ますこともできるが、コンポストトイレを備えるのも一案だ。

微生物の力を借りて汚物を分解するコンポストトイレを備えれば、食べたものを自然に返しやすくなる
By Rene Cortin, CC BY-SA 4.0

究極的には家までも、地元の資材でつくって自然に返すという考え方がある。

10年で大地に戻る家「Emerald in the Rough」
Via:dwell.com

水、エネルギー、食糧、トイレ、家。

どうせなら、そのいくつかを同時に、効率的に得られるよう工夫したい。

オフグリッドの移動カプセル「Ecocapsule」。太陽光、風力、雨水を効率的に得られる
Via:ecocapsule.sk

自給自足の小屋が、なぜほしい?

ところで、必要なものを自給する小屋がほしいのは、なぜだろう。

都市から離れた自然の中で過ごしたくて、そのために必要だから?

それだけなら、外から持ち運んだ方が楽ことも多いし、都市に自給自足の小屋をつくる理由もない。

NYに出現「Ecological Living Module」。太陽光からの電気や雨を浄化した水のほか、壁面で野菜を育てて自給する。Via:dwell.com

環境に調和しながら生きていきたいから?

太陽や風や雨を通じて、自然とのつながりを感じたいから?

インフラに依存せずとも生きていけることを、確かめたいから?

シンプルな暮らしで、本当に必要なものを見つめ直したいから?

どれも、推測に過ぎないけれど。

高度化、複雑化、都市化が進んだ社会にある、いろいろな欲求が見え隠れする。

(了)
<文:谷明洋、イラスト:千代田彩華>

【都市科学メモ】

小屋の魅力

オフグリッドや自給自足の暮らしを実現できる

生きる特性

小ささ、アレンジしやすさ

結果(得られるもの)

自然の中での時間、環境との調和、地球との接点、生きる力、暮らしに必要なものへの理解

手段、方法、プロセスなど

何を自給するか、考える
本稿で取り上げた水、エネルギー、食糧、小屋の資材を中心に、何をどこまで自給するのかをまず、考えたい。自給自足は、それ自体が「目的」にも、自然の中で時間を過ごすための「手段」にもなり得る。目的や環境に応じて、都市インフラの活用や、持ち運ぶことを選択肢に加えても良いだろう。
自給する機能を得る
自給すると決めたものを、どうやって得るのか。試行錯誤して自作するもの楽しいし、必要な部分や、あるいは小屋全体を購入することもできる。発電や水の循環、トイレなどについてはテクノロジーが常に進んでいるので、最新情報をチェックしてみよう。
時間をかけて、楽しんでみる
水は雨が降らなければ得られないし、食糧を生産するにも時間がかかる。曇りが続いて思うように発電できないこともあるかもしれない。コントロールしきれない自然に対して、どのくらいのバックアップを用意し、どのくらいのことなら受け入れるのか。自分らしく楽しみたい。
【Theory and Feeling(研究後記)】
日本科学未来館に勤めていた前職時代に、「循環」や「地球と人間の関係」を考えるようになりました。「有限の閉鎖空間である地球で、人類が生き延びるためにはどうするのか?」という問いがあるからです。

島根県にある海士町という離島を訪ねたときのこと。「外との境界がはっきりしている離島は、循環を考える良い場所なんじゃないかな」。島の学習塾のスタッフさんから、そんな話を聞きました。

未来館の毛利衛館長は、人が宇宙に滞在するための「国際宇宙ステーション」を「地球の縮図」と位置づけることがありました。国際宇宙ステーションは確かに、オフグリッドな閉鎖空間(食糧は運んでいくけれど)。「究極の小屋」と言えるかもしれません。離島、国際宇宙ステーション、そして小屋。有限性や閉鎖性のある場所で感じられることは、地球にも通じるような気がしてきました。(たに)

高度400kmに人が滞在する「国際宇宙ステーション」は”究極のオフグリッド小屋”?

 

「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画です。下記の4人で調査、研究、連載いたします。

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/星空と宇宙の案内人
1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践中。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「星空と宇宙の案内人」などもやっています。

小泉 瑛一(Yoichi Koizumi)
建築家/ワークショップデザイナー/アーバン・サイエンス・ラボ研究員
1985年群馬県生まれ愛知県育ち、2010年横浜国立大学工学部卒業。2011年からオンデザイン。2011年ISHINOMAKI 2.0、2015年-2016年首都大学東京特任助教。参加型まちづくりやタクティカルアーバニズム、自転車交通を始めとしたモビリティといったキーワードを軸に、都市の未来を科学していきたいと考えています。

さわだいっせい / ウエスギセイタ
YADOKARI株式会社 共同代表取締役
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。

また、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「YADOKARI(旧:未来住まい方会議)」、小さな暮らしを知る・体験する・実践するための「TINYHOUSE ORCHESTRA」を運営。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」などを企画・運営。黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」などの名建築の保全・再生や、可動産を活用した「TInys Yokohama Hinodecho」、「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。