小屋×都市 #15 妄想する小屋|都市を科学する〜小屋編〜 – オンデザインパートナーズ×YADOKARI
どんな小屋をつくろう?
小屋でどんな時間を過ごそう?
「妄想」するだけでも、小屋は楽しかったりする。
それは自分自身がどんな生き方をしたいのか、
さぐることなのかもしれない。
小屋に思い描く「形」や「時間」
「好きな小屋を自由に描いて」と言われたら、どんな小屋を思い浮かべるだろう?
あれこれ考えながらイメージを膨らませるのは、楽しい時間だ。
「小屋のある楽しい時間」を、自由に想像するのも面白い。
テクノロジーを活かし、未来の可能性を考えることだってできる。
必ずしも、実現させる必要はない。
新しい活動のインスピレーションを得られるかもしれないし、
何より、考える方も、見る方も、楽しいからだ。
自由度が高い「加点法」で組み合わせる
小屋を思い描くのは、なぜ楽しいのだろう?
「“素敵な居場所”をたくさん考えて、どんどん足して、組み合わせていくプロセスが、自由度の高い“パッチワーク”みたいで」
オンデザインで、小屋の設計を担当したことがある建築家・森詩央里さんが語る。
通常の建築は、「与えられた空間に、求められる機能をどう盛り込むのか」考えることが多い。いわば、「やりくりするような感覚」だ。
一方の小屋は、目的が明確な分、求められる機能も絞られている。
空間は小さくても、「制約が少ない中で、自由に加点していく感覚」があるという。
つくりたいのは「箱」ではなくて、そこで過ごす「時間」。
その「時間」をまず考え、それを実現する空間の形を想像する。
時には同僚ともアイデアを出し合い、組み合わせていく。
想像というより、「妄想力」を最大限に活かすプロセスだ。
その軽やかさは、建築家だけのものではないはず。
むしろ実現を前提にしなくて良ければ、妄想の自由度をさらに高められるだろう。
そんな楽しい思考だから、考える側も、見る側も楽しいのだ。
生き方の「希望」や「理想」を追求する
最後に、「小屋 ✕ 妄想」という組み合わせの価値を考えてみたい。
小屋は小さいから、本当に好きなことをシンプルに考えることができる。
小屋は「暮らし」や「遊び」の空間だから、自分の「時間の過ごし方」を考えることにもなる。
そして「妄想」は、自分自身の「希望」や「願い」をとことん追求する行為だ。
つまり、「小屋を妄想する」ことは、「自分の理想の生き方を突き詰める」ことではないだろうか。
人は、どんな小屋が、なぜほしいのか?
「都市を科学する〜小屋編〜」は、多様な“小屋らしきもの”をグルーピングすることで、そんな問いに対する答えを探してきた。
結果として、現代の社会を生きる人たちの「希望」や「願い」のいくつかに、思いを馳せることができた。
好きな世界をつくりたい、好きなことで「ありがとう」を言われたい、仲間と楽しみたい、起こることを楽しみたい、遊牧的に暮らしたい、生きる力を確かめたい、人や社会とつながりたい…
ただこれらの答えは、ほんの一部のパターンの、ひとつの勝手な解釈にすぎない。
社会にはたくさんの人がいるのだから、もっと多様な生き方の「希望」や「願い」があって良いと思うのだ。
だから今度はあなたに、小屋の「形」や「時間」を自由に描いてみてほしい。
紙とペンを使っても、誰かと語り合うだけでも、小屋についてのイベントに顔を出しても良い。
きっと、自分が求める「生き方」や「暮らし方」に自分自身で気付く、助けになってくれる。
(了)
<文:谷明洋、イラスト:千代田彩華>
【都市科学メモ】 | |
小屋の魅力 |
妄想が広がる |
生きる特性 |
小ささ、実現必要性の自由度、「時間の過ごし方」との親和性 |
結果(得られるもの) |
自分の理想の「生き方」「暮らし方」への気付き |
手段、方法、プロセスなど |
実現性を二の次にする とことん妄想しよう。自分の「希望」「願い」を掘り下げていきたい。予算や空間、構造などの物理的制約などをひとまず考慮しないのも、妄想の自由度を高めてくれる。 |
描く、話す、そのための問い 頭の中で妄想することもできるけど、アウトプットすることで発見することも多いはず。ひとりで紙に描いても、誰かとおしゃべりしても良い。「もし、どんな小屋でも手に入れられるとしたら?」「どんな小屋で、どんな時間を過ごしたい?」。妄想するための問いやヒントは、これまでの連載にも転がっているかもしれない。 |
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「希望」を叶える方法を考える 小屋を妄想することで見えた「願い」は、せっかくならば叶えたい。描いた「小屋」を手に入れる方法もあるが、もしかしたらその「願い」は、小屋以外の形や場所でも実現できるかもしれない。妄想する対象としての小屋は、それ自体が目的なのではなく、「願い」を掘り下げるためのツールと捉えることもできるのだ。 |
【Theory and Feeling(研究後記)】 |
15回の連載の間に、いろんな小屋の記事を読んだり、実際に見たり、小屋を持っている人に会ったり。それは、「もし、自分だったら…」と、ひたすら妄想してみる時間でもありました。まだ小屋は手に入れてませんが、「出張する星空案内人」や「ノマド的な働き方」は、試してみたりしています。僕自身の根底には、どんな欲求があるのかなぁ。次回以降、小屋を持つ人の「希望」や「願い」を考察してみたいと思います。もうしばし、お付き合いください。(たに) |
「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画です。下記の4人で調査、研究、連載いたします。
谷 明洋(Akihiro Tani) アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/星空と宇宙の案内人 1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践中。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「星空と宇宙の案内人」などもやっています。 |
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小泉 瑛一(Yoichi Koizumi) 建築家/ワークショップデザイナー/アーバン・サイエンス・ラボ研究員 1985年群馬県生まれ愛知県育ち、2010年横浜国立大学工学部卒業。2011年からオンデザイン。2011年ISHINOMAKI 2.0、2015年-2016年首都大学東京特任助教。参加型まちづくりやタクティカルアーバニズム、自転車交通を始めとしたモビリティといったキーワードを軸に、都市の未来を科学していきたいと考えています。 |
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さわだいっせい / ウエスギセイタ YADOKARI株式会社 共同代表取締役 住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。 また、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「YADOKARI(旧:未来住まい方会議)」、小さな暮らしを知る・体験する・実践するための「TINYHOUSE ORCHESTRA」を運営。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」などを企画・運営。黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」などの名建築の保全・再生や、可動産を活用した「TInys Yokohama Hinodecho」、「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。 |