小屋×都市 #15 妄想する小屋|都市を科学する〜小屋編〜 – オンデザインパートナーズ×YADOKARI

小屋×都市 #15 妄想する小屋|都市を科学する〜小屋編〜 - オンデザインパートナーズ×YADOKARI

どんな小屋をつくろう?
小屋でどんな時間を過ごそう?
「妄想」するだけでも、小屋は楽しかったりする。
それは自分自身がどんな生き方をしたいのか、
さぐることなのかもしれない。

小屋に思い描く「形」や「時間」

「好きな小屋を自由に描いて」と言われたら、どんな小屋を思い浮かべるだろう?

Via:humble-homes.com
サンタが作る“子どもの秘密基地”より

あれこれ考えながらイメージを膨らませるのは、楽しい時間だ。

Via:humble-homes.com
趣味で集めている「ビンテージの布」を飾り付けることに

「小屋のある楽しい時間」を、自由に想像するのも面白い。

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僕たちらしい小屋の未来と「THE SKELETON HUT」のオモシロがり方より(画像提供:エンジョイワークス)

テクノロジーを活かし、未来の可能性を考えることだってできる。

着せ替え自動運転車?それはスケートボードに乗ってやって来るvia: rinspeed.eu

必ずしも、実現させる必要はない。

ギリシャの大学教授の奇妙な建築プロジェクトより(コラージュ作品)via: flickr.com

新しい活動のインスピレーションを得られるかもしれないし、

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旅するアーティスト・イン・レジデンスより。アーティストが各地を巡り、自由に芸術活動を行う想像が膨らむ

何より、考える方も、見る方も、楽しいからだ。

タイニーハウスデザインコンテスト2018 審査会レポート| YADOKARI×小菅村より。デザインは、考える側も見る側も楽しい。

自由度が高い「加点法」で組み合わせる

小屋を思い描くのは、なぜ楽しいのだろう?

「“素敵な居場所”をたくさん考えて、どんどん足して、組み合わせていくプロセスが、自由度の高い“パッチワーク”みたいで」

オンデザインで、小屋の設計を担当したことがある建築家・森詩央里さんが語る。

「こんなことをしてみたい!」を集めた結果、小屋という居場所ができるという考え方

通常の建築は、「与えられた空間に、求められる機能をどう盛り込むのか」考えることが多い。いわば、「やりくりするような感覚」だ。

一方の小屋は、目的が明確な分、求められる機能も絞られている。

空間は小さくても、「制約が少ない中で、自由に加点していく感覚」があるという。

森さんたちが「自転車・バイク」をテーマに考えた小屋の模型

つくりたいのは「箱」ではなくて、そこで過ごす「時間」。

その「時間」をまず考え、それを実現する空間の形を想像する。

時には同僚ともアイデアを出し合い、組み合わせていく。

写真の小屋の構想は「趣味を堪能する」「映画を見る」「仲間と集まる」といったシーンを妄想し、組み合わせることで出来上がっていった

想像というより、「妄想力」を最大限に活かすプロセスだ。

その軽やかさは、建築家だけのものではないはず。

むしろ実現を前提にしなくて良ければ、妄想の自由度をさらに高められるだろう。

もう少し身近な「インテリア」をテーマに、家族の趣味を凝縮した小屋の模型

そんな楽しい思考だから、考える側も、見る側も楽しいのだ。

生き方の「希望」や「理想」を追求する

最後に、「小屋 ✕ 妄想」という組み合わせの価値を考えてみたい。

小屋は小さいから、本当に好きなことをシンプルに考えることができる。

小屋は「暮らし」や「遊び」の空間だから、自分の「時間の過ごし方」を考えることにもなる。

そして「妄想」は、自分自身の「希望」や「願い」をとことん追求する行為だ。

つまり、「小屋を妄想する」ことは、「自分の理想の生き方を突き詰める」ことではないだろうか。

イラストを担当する千代田の理想の小屋ライフは「好きなものに合わせて、更新してつくり続けられること」

人は、どんな小屋が、なぜほしいのか?

「都市を科学する〜小屋編〜」は、多様な“小屋らしきもの”をグルーピングすることで、そんな問いに対する答えを探してきた。

結果として、現代の社会を生きる人たちの「希望」や「願い」のいくつかに、思いを馳せることができた。

好きな世界をつくりたい好きなことで「ありがとう」を言われたい仲間と楽しみたい起こることを楽しみたい遊牧的に暮らしたい生きる力を確かめたい人や社会とつながりたい

ただこれらの答えは、ほんの一部のパターンの、ひとつの勝手な解釈にすぎない。

社会にはたくさんの人がいるのだから、もっと多様な生き方の「希望」や「願い」があって良いと思うのだ。

だから今度はあなたに、小屋の「形」や「時間」を自由に描いてみてほしい。

紙とペンを使っても、誰かと語り合うだけでも、小屋についてのイベントに顔を出しても良い。

きっと、自分が求める「生き方」や「暮らし方」に自分自身で気付く、助けになってくれる。

(了)
<文:谷明洋、イラスト:千代田彩華>

【都市科学メモ】

小屋の魅力

妄想が広がる

生きる特性

小ささ、実現必要性の自由度、「時間の過ごし方」との親和性

結果(得られるもの)

自分の理想の「生き方」「暮らし方」への気付き

手段、方法、プロセスなど

実現性を二の次にする
とことん妄想しよう。自分の「希望」「願い」を掘り下げていきたい。予算や空間、構造などの物理的制約などをひとまず考慮しないのも、妄想の自由度を高めてくれる。
描く、話す、そのための問い
頭の中で妄想することもできるけど、アウトプットすることで発見することも多いはず。ひとりで紙に描いても、誰かとおしゃべりしても良い。「もし、どんな小屋でも手に入れられるとしたら?」「どんな小屋で、どんな時間を過ごしたい?」。妄想するための問いやヒントは、これまでの連載にも転がっているかもしれない。
「希望」を叶える方法を考える
小屋を妄想することで見えた「願い」は、せっかくならば叶えたい。描いた「小屋」を手に入れる方法もあるが、もしかしたらその「願い」は、小屋以外の形や場所でも実現できるかもしれない。妄想する対象としての小屋は、それ自体が目的なのではなく、「願い」を掘り下げるためのツールと捉えることもできるのだ。
【Theory and Feeling(研究後記)】
15回の連載の間に、いろんな小屋の記事を読んだり、実際に見たり、小屋を持っている人に会ったり。それは、「もし、自分だったら…」と、ひたすら妄想してみる時間でもありました。まだ小屋は手に入れてませんが、「出張する星空案内人」や「ノマド的な働き方」は、試してみたりしています。僕自身の根底には、どんな欲求があるのかなぁ。次回以降、小屋を持つ人の「希望」や「願い」を考察してみたいと思います。もうしばし、お付き合いください。(たに)

 

「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画です。下記の4人で調査、研究、連載いたします。

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/星空と宇宙の案内人
1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践中。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「星空と宇宙の案内人」などもやっています。

小泉 瑛一(Yoichi Koizumi)
建築家/ワークショップデザイナー/アーバン・サイエンス・ラボ研究員
1985年群馬県生まれ愛知県育ち、2010年横浜国立大学工学部卒業。2011年からオンデザイン。2011年ISHINOMAKI 2.0、2015年-2016年首都大学東京特任助教。参加型まちづくりやタクティカルアーバニズム、自転車交通を始めとしたモビリティといったキーワードを軸に、都市の未来を科学していきたいと考えています。

さわだいっせい / ウエスギセイタ
YADOKARI株式会社 共同代表取締役
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。

また、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「YADOKARI(旧:未来住まい方会議)」、小さな暮らしを知る・体験する・実践するための「TINYHOUSE ORCHESTRA」を運営。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」などを企画・運営。黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」などの名建築の保全・再生や、可動産を活用した「TInys Yokohama Hinodecho」、「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。