【インタビュー】東野唯史さん vol.4 忘れられていた「ものを大切にする暮らし」

「ReBuild New Culture(リビルドニューカルチャー)」
それは、世の中に見捨てられたものに価値を見出し、再び世の中に送り出す。そして価値を次の世代につないでいくこと。

全国を点々とし、古材を利用した改装を手がける東野唯史さんが信州・諏訪に構えた「ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)」の理念だ。

リビセンでは、住宅などの解体現場から救済(レスキュー)してきた古材や古道具を販売している。併設されているカフェの窓からはレスキューした古材が並び、カフェ利用をきっかけに古材に興味を持ち、県内外から足を運ぶ人も数多くいる。

インタビュー企画の最終回。東野さんの考える「豊かな暮らし」とはどんな暮らしだろうか?

そして、「ReBuild New Culture」において価値をつないでいく「次の世代」へ伝えたいことをうかがう。

当たり前のことを当たり前にやる。
難しいことを排除した東野さんの考え方に、頭でっかちになってはいけないと思い知らされた。

インタビュー①:古材を通してつくり出したい「ReBuild New Culture」という理念
インタビュー②:古材屋のハードルを下げるカフェの役割
インタビュー③:守るべき場所に拠点を置くこと
インタビュー④:忘れられていた「ものを大切にする暮らし」

東野唯史(あずのただふみ TADAFUMI AZUNO)
ReBuilding Center JAPAN 代表
1984年生まれ。名古屋市立大学芸術工学部卒。2014年より空間デザインユニットmedicalaとして妻の華南子と活動開始。全国で数ヶ月ごとに仮暮らしをしながら「いい空間」をつくりつづけてきました。2016年秋、建築建材のリサイクルショップReBuilding Center JAPANを長野県諏訪市に設立。ReBuild New Cultureを理念に掲げ、「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」ことを目的に活動しています。
レスキューされた窓がずらりと並んだ入り口が楽しい。左が東野唯史氏、右はYADOKARI代表ウエスギ。

ーーYADOKARIの活動は住宅をダウンサイジングすることで今の社会に対するアンチテーゼ的なところがあります。タイニーハウスやものをもたないこと、あるいはものを大切にすること、震災以降増えている気がするのですがどうお考えでしょうか。

東野:それはあるかもしれませんね。レスキューに行くことで、戦前の日本の暮らしや文化を知ることができるのですが、昔の人はものを大切にしているなと肌で感じます。ひとつのものを何度も何度も直しながら使っていたり、工夫していたり、自分でつくっていたり。そういう暮らしを日本人はずっとしてきたんだなってハッとさせられるのですが、今、その時代が戻ってきたのではないかなと感じています。
かつては、戦後を迎え経済が急激に成長したことで「大量生産・大量消費」に人々が向かっていき、日本の「ものを大切にする暮らし」を少し忘れてしまいましたよね。 

ベンチ作りワークショップの様子。ワークショップは告知後すぐに満員になってしまうそう。

ーーワークショップやお助け隊の受け入れをする中で、「お金を通さない価値交換」が見えてくるのかなと思っています。僕らも「お金を通さない価値」を意識することがあります。

東野:工事など人手を募集する時はお金をとらないというのが僕達の考えですね。手伝ってもらっている以上、たとえ教えるという名義があるにしても、お金はいらないと思っています。逆に来てもらうんだったら、こちらはちゃんと美味しいご飯を用意して、楽しく過ごせるように気を使うのがいいんじゃないかな。稼ぎすぎる必要はないと思うんです。

ーー稼ぎすぎる必要。

東野:はい。会社が赤字でない限り、出来る限りの価値は安く提供して、色んな人が古材を使う機会を提供したり、ワークショップをして技術を得られたり、暮らしが豊かになる連鎖が生まれるきっかけになったらいいなと思いますね。

正面入口よりすぐ右手の部屋には、暮らしに取り入れたい古道具が並ぶ。

ーー今、「暮らしが豊かになる」というキーワードがでてきましたが、東野さんの考える「豊かな暮らし」とはどのような暮らしでしょうか。

東野:僕の思う豊かな暮らしは、何かをしたいとか、何かを食べたいって思う時に、誰にも頼らずにできることではないかと思っています。自分の中でそれが達成できると、どこだって生きていけるし、どこだって暮らしをつくれる。自由だし豊かじゃないですか。
そういうベースがある中で、自分のスキルを使ってお金を稼ぐってなったときに、お金を使う先を友達だったり、応援したいブランドだったりに使えるっていう、その価値観を持ってることが豊かかな。

ーーリビセンを通してつくりたいと感じている「ReBuild New Culture(リビルドニューカルチャー)」は「世の中に見捨てられたものに価値を見出し、もう一度世の中に送りだし、次の世代につないでいく」との意味合いを持っているかと思います。見出した価値をつないでいくべき「次の世代」に対して期待することや伝えたいことはありますか。

東野:先人がつくってきたものを、まず尊敬することでしょうか。これは間違っているなっていうこともいっぱいあると思いますが、その人がつくってきた時代があって、今自分たちがその上に立っていわけですよね。文明をつくるためにiPhoneをつくったりパソコンをつくったり。めっちゃ色んな人が努力してきて存在する今を認めて、素直にその頑張りを尊敬すること。ただ、今の社会とか置かれている状況もあると思うので、ちゃんと考えた結果批判をするならする。

ーーなるほど。

東野:あとはお金を稼ぐことを嫌わないこと。仕事っておもしろいし、おもしろい仕事ほど稼げないことが多いかもしれません。理想は、おもしろくて稼げない仕事の中でもきちんと自分たちの生活が成り立って、いただくお金以上の価値を提供し続けること。そうすることでおもしろい仕事ばかりがやってくるサイクルに入る。僕はそれが大切で、幸せだと思います。


難しく捉えられがちな物事を、ゆるくほどいていく。

シンプルで、スッと心に入り込む東野さんの考えに、思わず唸ってしまう時間だった。

東野唯史さんの考える、未来の場所・お金・時間

 場所:日本はどこに行ってもおもしろいし、ご飯が美味しいです。人口が減って過疎が進んで経済が衰退しつつあるタイミングはどこにいっても家賃が安いから、地方は生活するのに恵まれた環境だと思います。

 お金:稼ぐ時は、稼ぐお金を使うイメージを持てることが大切かなと思っています。僕だったら1000万、2000万円資金ができたら、「この家は壊されたくない!」と思った家をバンっと買いたいですね。そのためにお金を持っていたいなと思います。

 時間:自分の好きな時間に働けたらいいなと思います。ただ、僕たちはお店をやっているから営業時間に拘束されてしまいますね。チームで活動すると、他の人が頑張っているのに自分がサボるとまずいとか、頑張っている人が「なんで自分ばっかり頑張っているの」って思ってしまうことがあるからバランスは大事だと思います。

インタビュー③:守るべき場所に拠点を置くこと