ココロの気分を上げるムードフード 新たな『食』の楽しみ方で癒されてみませんか?

ムードフードって?

「ムードフード」という言葉をご存じだろうか?雰囲気の「MOOD」と食べ物の「FOOD」を掛け合わせた単語である。心の雰囲気を変える食べ物、つまりは「気分を変える食べ物」のことを指す。中でも特に、不安や緊張・眠れないといったストレスによる心身への影響を緩和させる事が目的で取り入れられる事が多い。

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日本におけるムードフードの事例2選

具体例としてメンタルバランスチョコレート「GABA」が挙げられる。
GABAと呼ばれる成分は、γ-アミノ酪酸と呼ばれるアミノ酸の1種で、多くのカカオ製品や発芽玄米などに含まれる成分である。一時的・心理的なストレスを緩和させる機能があることが報告されている。実際に、パッケージの裏側には「仕事や勉強等による一時的・心理的なストレスの低減に効果があることが報告されています」との記載がある。

https://www.glico.com/jp/health/contents/gaba01/を基に作成(商品画像:photo by writer)

他にも、昨年流行した「ヤクルト1000」もムードフードの例として挙げられる。乳酸菌シロタ株と呼ばれる成分が、一時的なストレスによる負担からの緩和と、眠りの深さとスッキリとした目覚めをもたらす睡眠の質向上に効果的であるとされた。

https://www.yakult.co.jp/shirota/archive/2103-01/を基に作成(商品画像:photo by writer)

このように、「ストレス緩和」や「睡眠の質改善」といった機能を持ち、心身に変化をもたらす食品が広くムードフードと定義される。今回、ムードフードを定義する上で、その構成要素を2つに分解してみた。味や香り、見た目など視覚や聴覚等の五感的情報の要素を持つ感覚面。それから栄養素や成分といった機能的要素の理論面の2つである。

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日本でのムードフードの事例は「理論的」に定義される

こうして分解をすると、日本でムードフードと定義される食品の多くは、その食品が持つ“機能面”が全面的に打ち出される。成分や栄養素などの情報から理論的に定義されることが多い。まずは、GABAチョコレートの事例。

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次に、Yakult1000の事例である。

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「GABA」や「シロタ株」など、食品の持つ成分に着目しその機能や摂取による効果を謳っている。一方で、海外のムードフードの事例をいくつか調べると、感覚面からも同時に「ムードフード」が定義されている事が多いことに気付く。

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海外でのムードフードの事例は「感覚的」に定義される

①ピザ食って月曜日への憂鬱感を打開しちゃおうぜ!?ピザハットの事例

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土日休みの人々が、休みの最終日から月曜日が近づくにつれて感じる憂鬱な気持ち。そんな彼らの憂鬱感は「ブルーマンデー症候群」と呼ばれることがある。日曜日の夕方に放送される「サザエさん」にちなんで休み明けの仕事や通勤を憂鬱に思う「サザエさん症候群」と等しい。
そんなブルーマンデー症候群に対して、幸せホルモン(正確には神経伝達物質)を分泌する食材を含んだピザで憂鬱感を打開しようという企画がピザハットによって行われた。「最高に幸せになれるピザ」と称して、Happiest pizzaと名付けられたピザはトマトソース・モッツァレラチーズ・ツナ・紫玉ねぎ・オリーブ・コーンが具材として取り入れられている。選ばれしこの具材はセロトニンやドーパミンを含めた4つの幸福を感じる神経伝達物質の分泌を促す物質を含んでいるものを使用している。

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例えば、ツナは精神安定に効果的なセロトニンを含む。また、モッツァレラチーズには気分が前向きになるドーパミンが含まれる。このように、“幸せホルモンを含む食材を使用”という機能的な情報によってムードフードとして理論的に説明できる。しかし、この「最高に幸せになれるピザ」のムードフードとしての定義は理論面だけにとどまらない。

感覚面からも見てみよう。視覚的な工夫として、食材の色味の組み合わせにもこだわりがあるという。玉ねぎの紫、コーンの黄色、トマトケチャップの赤などカラフルな組み合わせによって目で見て楽しい気分になれるような工夫が施されている。更に、ピザハットはピザを食べる際に視聴を推奨した動画を公開している。決してクオリティが高いとは言い難い映像では、赤ちゃんの笑い声や、子犬や子猫、ハートマークや夕日や虹など、10の映像と音楽が組み込まれている。“幸せな気分”を増長させる効果がある要素を視覚的・聴覚的に織り交ぜている。

このように、食材の持つ機能の説明だけでなく、具材の色の組み合わせや動画の配信など視覚的・聴覚的といった感覚面からも気分の高揚をもたらす工夫がなされ『ムードフード』として考えられている。

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②フライトのストレスを一掃して「リラックス」した空旅を?モナーク航空の事例

モナーク航空が機内食としてムードフードを取り入れた事例もある。「旅行」となると楽しみの反面、長時間の移動や気圧の低下などストレスを感じてしまう場面がある。こうした状況への対応策としてアルコールの提供を控えるなどの取り組みを行う航空会社がある。そんな中、モナーク航空は乗客のストレスを軽減し、むしろリラックスを目的とした“mood food box”と呼ばれる機内食を提供したことが話題となった。

https://images.squarespace-cdn.com/content/v1/56d6bba7859fd0c74bf36fc3/1519246677035-LG1ZPI9HMD4MR2WCSZWD/Monarch+Mood+Food+infographic+2.jpg?format=1000w

まず、離陸前に提供されるのは、アイスクリーム。免疫機能改善や呼吸器系の炎症を鎮める効果のある食材として、ムラサキバミ草とリコリス(甘草)が使用されている。そして、離陸中に提供されるラベンダーと抹茶のお餅はラベンダーのリラックス効果と、抹茶の抗酸化作用の効果が期待される。
さらに、飛行開始から30分後には膨満感や消化不良を防ぐ効果的なカモミール・フェンネル・昆布をブレンドさせたハーブティーと海藻のビスケット。着陸前に「うま味成分」による活力付与が期待されるキノコとトマトパウダーをまぶしたキャラメルナッツバーが提供される。

http://madeineden.uk/projects/monarchを基に作成

しかし、こうした「免疫機能改善」や「炎症を鎮める」などの機能的な情報や効果についてモナーク航空が乗客に事細かに説明していただろうか?移動疲れに説明疲れが付随してしまいそうだ。それ以上に、感覚的に食を楽しんでもらうことを意図しているように思う。

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例えば、甘草とムラサキバミソウのアイスクリームの色はなんと『漆黒』である。アイスクリームにしては珍しいであろう色味が、視覚的な意外性が子供心をくすぐる。このワクワク感が旅の幕開けを促す。

https://res.cloudinary.com/dotcom-prod/images/dpr_2,f_auto,q_auto,w_768/v1/wt-cms-assets/2021/07/hylpa6gprr8bcntmxxhv/echinaceaandlicoriceicecreamfrommonarchairlinesmoodfoodinflightmeal.jpg

また、抹茶とラベンダーのお餅は、お餅という食感にすることで咀嚼を促しストレス緩和効果に繋げている。触覚にも拘っていることが分かる。
さらに、キノコとトマトパウダーをまぶしたナッツバーは味覚を刺激する。気圧の関係で味覚が通常時より塩味・甘みが2〜3割低下する中、人々が唯一地上と同じ味わいで感じ取れるのが“うま味”と言われている。この“うま味”成分を取り入れたナッツバーは食事本来の“美味しさ”を最後にしっかりと感じ取れるようにという意図で取り入れられている。

このように、リラックス機能や抗酸化作用などの機能的情報はあるにはある。しかし、それ以上に珍しい真っ黒なチョコレートによって視覚的にインパクトを与える工夫。餅という食感による触覚への作用。感覚的な面から人々の心を高揚させようという意図が見て取れる。また、食品の持つ効果に応じて提供タイミングを変化させることで、まるでコース料理のような非日常感を得られる工夫を取り入れている。

食品の持つ機能を前面に出す日本の事例と、視覚など感覚的情報を前面に出す海外の事例。両者を比較すると「ムードフード」の捉え方の差が見えてきて興味深い。そして、『機能的情報』の打ち出し方に関しても、日本と海外ではどうやら違いがありそうだ。

『ストレス削減』に焦点を置く日本と『リラックス効果』に焦点を置く海外

GABAチョコレート、Yakult1000のどちらの事例を見ても『ストレス削減』や『ストレス緩和』などマイナスな状態からの改善という「マイナス→ゼロ思考」で食品の持つ機能を説明している。

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次に、ピザハットやモナーク航空など海外の事例を参照してみる。

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『幸せホルモンの分泌』や『世界一幸せになれるピザ』の文言。モナーク航空の機内食の事例は『リラックス効果』に焦点を当てている。楽しい気持ちになれるような「ゼロ→プラス思考」で食品の機能を説明している事が分かる。同じ“食品の機能に関する説明”でも、一方は「ストレス削減」に焦点を当て、一方は「気分の高揚」に焦点を当てている。

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『ムードフード』という共通テーマの中で日本と海外の違いを発見することは実に興味深い。日本の事例、海外の事例、どちらのムードフードの捉え方が正解・不正解という事はない。ただ、同じ機能の説明でもよりプラス思考で説明されるとなんだか勝手に気分も高揚することは確かだ。無意識のうちに心が癒されそうなものである。ピザハットが単に『ブルーマンデー症候群ストレス改善ピザ』と打ち出すよりも、やはり『幸せな気分になれるピザ』と言われた方が心がギュンと鷲掴みにされるのはきっと私だけではないはず。

五感的情報を盛り込み、『気分高揚』や『リラックス効果』などポジティブに食品の機能に焦点を当てる海外の事例。『ムードフード』と呼ぶにとどまらず“mood enhancing”の“気分を高める”という考え方が強いように感じた。食を心から楽しみ、食によって気分を上げて心を癒すという視点。食品を購入する際、ついついカロリーや栄養素、タンパク質含有量など字面から得られる機能的情報に引き寄せられる私にとってはハッとさせられる視点だった。

真の意味でのムードフードとは、より感覚的に『心が癒されている』『気分が落ち着くな』と無意識のうちに感じられる食体験を指すのかもしれない。ついつい食品パッケージの字面から食品の機能を判断し、より効果的・効率的に摂取してしまいがちな私。海外のムードフードの事例を知ることで新たなる食への価値観を知り得た。

皆さんも機能面に囚われすぎず、ココロの温度を上げるムードフードで感覚的に食事を楽しむ体験をしてみてはいかがだろうか?

(参考文献)
ストレス社会の味方「ムードフード」って何?2023年注目の食トレンドを解説!
心ととのうムードフード – リビング京都
商品開発研究所で聞いた「メンタルバランスチョコレートGABA」人気の理由 | 【公式】江崎グリコ(Glico)
(2ページ目)食べて心をととのえる!コンビニやスーパーで手に入るムードフードおすすめ6選
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