家入一真さん vol.2 「誰もに居場所をつくりたい」、そのための“人生定額プラン”構想
「『お金』と『コミュニティ』の新たな価値を捉え、「小さな経済圏」をつくる。僕らが目指す◯◯の民主化。」と題した家入さんの公開インタビュー第2回。家入さんが考える“優しい社会”とはどのようなものなのだろうか。
vol.1 『クラウドファンディングは小さき物語の集積。“声を上げられる”ことが大事
vol.2 誰もに居場所をつくりたい」、そのための“人生定額プラン”構想
vol.3 共犯の関係性と、マネージメントしないマネージメント
vol.4 いい人って実はしんどい。いい人でなくても生きていける世の中に
居場所とは「おかえり」と言ってもらえる場所
──個々の小さい物語をクラウドファンディングを通して応援し、「インターネットが好き」と明言してはばからない家入さんですが、その原点をお聞かせください。
家入:中学生のころにいじめをきっかけに引きこもりになっちゃって、学校っていうメインシステムからこぼれ落ちた無力感が半端なかったんです。油絵の学校に行きたいなと思ったんですけど、家がすげえ貧しくて。多感な時期の「こんな自分になれるかも」「こんな自分になりたい」っていう思いを実現できなかった。
その後にインターネットと出会って、僕のホームページを見に来てくれる人がいたりして、インターネットが居場所みたいになっていって。一方で「世の中には居場所のなさみたいなものを抱えて生きてる人が結構いるんだな」っていうのも同時に感じたんです。
居場所のなさみたいなものを抱えて生きてる人たちの居場所をつくるっていうのは、すごくやりがいがある活動だなと思っていて。なので、どっちかっていうと、こぼれ落ちてしまった側を常に見てしまうというか。
──こぼれ落ちた側の「やりたい」という衝動に魅せられてる?
家入:語弊を恐れずにいうと、力もお金もない人が、あがく姿が美しいな、といつも感じてしまいます。
成功した人たちの声や物語はメディアや本を通じて世に出るけど、その裏にいる、成功しなかった大多数の存在には光が当てられない。そう行った人たちにいつも惹かれます。
──インターネットが居場所という話と併せてお聞きしたいのが、家入さんにとっての「自分の場所はここだ」って思えるリアルな場所についてです。
家入:会社や家、シェアハウスの「リバ邸」、それらが僕にとっての居場所だと感じますし、そこに共通するのは「小さな自己肯定感が得られる場所」で「いつ行っても“おかえり”って言ってもらえる場所」だということ。そんな場所があるかないかは結構でかいと思うんですよ。
「おかえり」って言ってあげられるメンバーと僕は仕事をしたいし、そういったメンバーが集まってると信じてるし。
──居場所は自己肯定と結び付く場だと。
家入:会社の行動指針に「優しい人であろう」みたいな感じのこと書いてるんです。で、面接のときも、「あなたは優しい人ですか?」と絶対聞くんですよね。自分から「いえ、優しくないです」なんて言う人はいないですけど(笑)
僕、スケジュール管理とか苦手なんですけど、時間守れなかったりドタキャンしちゃったりすると、そこで怒る人と怒んない人が分かれてくるんですよね。で、怒んない人と付き合うようにしてる(笑)。
──「こう言ったじゃん!」みたいなことで縛り合いたくない、っていう?
家入:よく「お前のこと信頼して任せたのに、なんでこうなったんだよ」って怒る人いるじゃないですか。信頼って本来、見返りを求めず、どんな結果でも背負う、という一方的な態度のことだと思うんですね。でも怒りを覚えちゃうのは見返りを求めてしまってるからなんです。で、優しさとかも同じなんじゃないかなと思ってて。
──「このラインを越えたら、もう許さない」みたいなのは嫌ですよね(笑)。
家入:往々にして、自分に厳しい人って他人にも厳しさを求めるんですよ。で、そういった人と働いてると、自分でつくった会社なのに、「僕行きたくないなー」ってほんとすぐなっちゃうんですよ。なるべく僕が行きたくなるような会社に、自分でしていかないと。
──自分でつくった会社なのに(笑)。
家入:でもね、これがまた、なんの業(ごう)なのか分かんないんですけど、居心地よくなり過ぎると、それはそれで居心地悪くなるんすよ。「煙草買ってくる」って言ってそのまま帰ってこないお父さん。たぶんね、そんな感じだと思うんですよね。違うかなー(笑)。
──「独りになれる場所に行きたい」ということですか。
家入:この年齢になるとバイオリズムみたいのがあって、「超テンションいい」感じと「やべえ、そろそろ落ちてくな」みたいな感じの波があります。この波とどう付き合ってくかみたいな生き方に変えて、楽になった部分はあると思いますね。
独りになる時間も好きですけどね、でも基本的に寂しいですよね。昼夜逆転のシェアハウス「よるヒルズ」をやってた高木新平ってやつの言葉がすごい面白いんですけど、「東京は独りになろうと思えば、図書館でも公園でもどこでも独りになれる。だからこそ、家にいるときぐらいは誰かと触れ合おう」っていう、逆転の発想で知らない人をどんどん家に招き入れてましたね。
込み込み月数万円、人生定額プランは世界を優しくする
──「家は一人でいるための場所」みたいな思い込みを除外してみる、ということですね。
家入:「人生定額プラン」っていうビジネスをやりたいなとすごく思っていて。住むところと着るものと食べるものが、「すべて込み込みで月額3万円」みたいなのがあったら、なんか生きていけそうな気がするじゃないですか。コミュニティ型の居住空間で、いろんなものをシェアしながら生きていくっていう。
──だいぶ優しい世界になりますよね。
家入:月3万円で生きていけると、結構変わるんですよ、働き方とか価値観とか。リバ邸にも3万円だけ稼いで空いた時間で好きなことやってるやつもいるし、フルで働いて余ったお金で何かやってるやつもいるし、親からの仕送りで生きてるやつもいるし。
──空き家の活用にもつながる可能性がありそうですね。
家入:「CAMPFIRE」でも空き家をゲストハウスやシェアハウスにしたいっていうプロジェクトはすごく多いですね。ただ実際、なかなか活用って難しかったりもするんですよね。「仏壇があるから」とか「甥っ子がいつか帰ってくるから」って。「いつかって、いつだよ」みたいな(笑)。
──YADOKARIの中でも空き地にはタイニーハウスを置いて使ってもらい、空き家は回収して全国でネットワーク化させていくという構想があります。月額数万円払えば、どんどん使えるという仕組みです。
単純に東京でワンルームに月10万円払って暮らすより楽しいと思うし、いろんなところ行ける。それが一つのセーフティーネットになることを目指したいなと思っていて。
家入:超いいですね、それ。「人生定額プラン」って言葉の響きで言ってるようなところあるんすけど、結局コミュニティとセットなんですよ。やっぱり独りでは3万円で生きていけないです。いろんなものをシェアしながらコミュニティの中で暮らすからこそですね。
──家入さんご自身の、住まい方や求める住まいのスペックなどに変化はありますか。かつてはたくさんのお金を持っていらっしゃった時期も、あったと思いますが。
家入:20代後半で会社を上場したときは、それなりにいいマンションを借りたりもしましたね。「東京タワーが見える!」とか。今考えると、恥ずかしいです(笑)。
ずっと賃貸ですし、一年くらいホテル暮らししてた時期もありますし、家をあんまり持ちたくないというのはあるかもしんないですね。どこでもいいんですよね、極論。
──家へのこだわりがなくなったのは、自然にですか。
家入:一度お金が全部なくなったっていうのはあると思うんですけど、いろんなものに対して執着なくなっちゃいましたね。趣味もこだわりもないし、日々目の前のことを一歩一歩やってる感じなんすよ。地味ーな人間です。ほんっとになんもないです。誇れるものがなんもない(笑)。
──1日の中で「ほっとする」「生きてる」と感じることはありますか。
家入: 僕、村上龍の『希望の国のエクソダス』って小説がすごく好きなんですけど、登場人物の中学生が「この国にはなんでもある。だけど、希望だけがない」ってことを言うんです。
それって日本の今の状況をすごく表してるなって思っていて。高度経済成長を経て、豊かになったけど、その先僕らどうしたらいいんだろう、って今そこに直面してると思うんですよ。日本は課題先進国って言われるように、少子高齢化も含めて、どんどん経済はちっちゃくなっていくし、セーフティーネットみたいなものも崩壊していくでしょう。貧富の差みたいなものも拡大して学ぶ機会とかも失われて……と、課題だらけなんですよね。
逆に言うと、今僕らが日本で生きていくっていうのは、その課題に自分としてどう向き合っていくかを考えることに意味を見出すしかないと思っていて。社員にもよく言うんですけどね。「個人の幸せを考えるんだったら、日本出てどっか違う国に行ったほうがいいと思う」って。
──日本の課題に向き合うという姿勢になったのは、いつ頃からですか。
家入:「インターネットで声を上げられるような場所をつくりたい」と、ペパボって会社をつくったり、「地方の人がネットショップで物を売りたいときにどうすれば?」ってことで「BASE」というサービスを立ち上げたり。そして現代の駆け込み寺と称しリバ邸を立ち上げたり、CAMPFIREを立ち上げたり。そういう「点」でやってきたことの延長線上で日本の課題に向き合っている今があるんだろうな、っていう気はしています。
10代のひきこもり期に出会ったインターネット。優しい社員がいる会社。おかえりと言ってもらえる仲間。家入さんにとっての居場所は、いつでも自分を肯定できる場所だった。
脳科学者の茂木健一郎さんは言っている。「予測できない未来に対して挑戦しようと思える人は、他人との絆から生まれる“安全基地”を必ず持っている」と。例えば親が子を見守るような確実に安心な場所があれば、不確実ともいえる挑戦を積み上げることができるのだという。
会社やシェアハウスなど、家入さんはずっと自分のための、そして「居場所のない誰か」のための安全基地をつくってきた。その活動が培った絆があるからこそ、今の彼は課題先進国・日本のその先を見つめ、自分と自分、自分と人、人と社会との関係性を自在に往来し、挑戦できるたおやかさを持っているのだろう。
第3回は、家入さんが思うコミュニティについて話を伺う。「マネージメントしないマネージメント」の真意とは?